【NBA売却】レイカーズ「完全売却」報道の誤解を解く|所有権と経営権の違いを構造的に読む

NBAチーム売却の報道は、しばしば「完全売却」「経営権移行」「持分調整」などの用語が混在し、誤解を招きやすい構造を持っています。本記事では、レイカーズやセルティックスの事例を通じて、報道の読み解き方と構造的な理解を深掘りします。

ロサンゼルス・レイカーズのホームコート、Crypto.com Arenaのバスケットボールコート。NBAチーム売却報道に関する記事用サムネイル。
「売却報道の難しさ、誤認の原因とは?!」

日本で流れる情報の中には、「完全売却」と「経営権移行」が混同

近年、NBAではチーム売却に関するニュースが相次ぎ、大きな話題を呼んでいます。しかし、日本のニュースやSNSで流れる情報の中には、「完全売却」と「経営権移行」が混同され、誤解を招くケースが少なくありません。実際には、所有権と経営権の仕組みが複雑で、単純に「売られた=完全に手放した」とは限らないのです。

  • 翻訳のズレ:英語で「stake」「share」「controlling interest」と表現されるものが、すべて「売却」と訳されてしまうことがあります。
  • 構造の複雑さ:NBAチームは複数の株主が共同で所有しているケースが多く、持分の一部だけが売られる場合もあります。
  • 経営権と所有権の違い:株の大半を持たなくても経営権を握れるケースがあり、ここを理解していないと報道を誤読してしまいます。

サンズ(2023年)、バックス(2023年)、マーベリックス(2023年)など、直近数年で複数のフランチャイズが売却されています。背景には放映権料の高騰、アリーナ収益の多様化、グローバル市場拡大があり、チームの価値は急騰。ブレイザーズの売却額は約42億5000万ドルと報じられ、NBA史上でも屈指の規模となりました。

ここでは、誤解されやすい2つのケースを紹介します。

2025年、レイカーズに関する「完全売却」というニュースが日本でも取り上げられました。しかし実際には、投資家マーク・ウォルター氏が経営権を掌握したものの、一部株主は依然として持分を保持しています。詳しい解説は以下になります。

2025年6月、バス家はマーク・ウォルター氏(MLBドジャースのオーナー)に対してレイカーズの過半数の経営権を売却しました。ジーニー・バス(Jeanie Buss) 氏は引き続きチームのガバナー(チームの最高責任者)として関与しますが、経営上の最終決定権はウォルター氏に移行しました。

なお、Buss家は一定の株式を保持していますが、経営上の最終決定権はマーク・ウォルター氏に移行しました。つまり「完全売却」ではなく、フランチャイズの実質的な支配権の移動と捉えるのが正確です。

NBA理事会の承認を経て、ウォルター氏はレイカーズの支配権(controlling interest)を正式に取得。ジーニー・バス(Jeanie Buss)氏は「ガバナー(Governor/球団代表)」として象徴的な役割を継続する可能性があるものの、経営上の意思決定はウォルター氏主導となります。これは、NBAの所有構造において「少数持分保持=経営権保持」ではないことを示す典型例です。

出典:ロイター(Reuters)「Lakers confirm sale of majority stake…

セルティックス(段階的な売却モデル)

セルティックスも「売却」として報じられましたが、こちらも段階的な株式売却であり、全株式が一度に手放されたわけではありません。株主の入れ替わりや持分の変動はあるものの、チームのアイデンティティが大きく揺らぐ状況ではないのです。

セルティックスでは、Bill Chisholm 氏率いるグループが51%の所有権を取得し、さらに2028年までに残りの株式を買い取る契約が結ばれています。現オーナーの Wyc Grousbeck 氏は CEO として残るものの、Governor(NBA理事会での代表権)は新オーナー側に移行予定です。つまり、これは「段階的な売却」と呼ぶべきモデルです。

出典:Reuters「NBA clears Celtics’ $6.1B sale…

なぜ「完全売却」と誤解されるのか?

背景には「株式比率」と「経営権(支配権)」の違いがあります。大多数のファンにとっては「誰がチームを最終的に動かすのか」が重要であり、その結果「経営権移行=完全売却」と短絡的に解釈されることが多いのです。

NBAでは、株式を保有する「オーナー」と、NBA理事会での「ガバナー」は別の概念です。NBAでは、各チームに 「リーグ理事会での代表者」 を置くことが義務づけられています。実際には、そのチームをリーグに対して代表する最終責任者(株主代表/経営代表) のことです。

  • オーナー(Owner):チームの株式を所有する人やグループ。必ずしも経営上の最終決定権を持つわけではない。
  • ガバナー(Governor):NBA理事会に出席し、リーグの方針決定に参加する公式代表者。実質的なチーム運営や意思決定権を持つ場合もある。

つまり、【ガバナーはガバナンス(組織運営の仕組み)の中で決定権を持つ役割】を担っており、株式を保有するオーナーとは異なる立ち位置です。このため、株を一部しか持っていないオーナーでもガバナーとして経営上の決定に関与することができます。

豆知識: NBAでは以前「オーナー」と呼ばれていましたが、多様性への配慮から「ガバナー」に表記が変わりました。

他チームとの比較

  • サンズ(2022年):ロバート・サーバーが経営権を手放し、新オーナーが完全にチームを取得。
  • バックス(2023年):持分の一部売却で共同経営体制が継続。
  • マーベリックス(2023年):マーク・キューバンが一部の経営権を維持しながら、大半を売却。
  • 完全売却ケース:全株式が新オーナーに移った例はあるが、むしろ少数派。

正確な報道がなぜ難しいのか?

  • 株主構成が複雑で外部からは把握しづらい
  • 海外記事を直訳する過程でニュアンスが失われる
  • 報道機関にNBAビジネスの専門知識が不足している

「売却」と一言で言っても、実際には「過半数株式の移動」「段階的売却」「経営権の移行」など様々な形があります。しかし、日本語報道ではこうした複雑なニュアンスが省略され、「完全売却」として伝わることも多いのです。要因としては、①米国現地報道の解釈ミス、②翻訳時の用語不足、③日本メディア側の株式・ガバナンスに関する知識不足などが挙げられます。

まとめ:ニュースを読む際の視点

今後のNBAチーム売却報道では、「誰が株式をどれだけ持っているか」だけでなく、「誰が意思決定を担っているか」に注目することが重要です。

NBAの「売却」ニュースを目にしたときは、次のポイントを意識すると正確に理解できます。

  • それは完全売却なのか?部分売却なのか?
  • 経営権が移動したのか?それとも株の一部が動いただけなのか?
  • 元の海外報道ではどの表現が使われているのか?

誤解や誇張に振り回されず、本質を見抜くことが大切です。NBAチームの売却報道は単なるニュースではなく、リーグ全体の経営動向を示す重要なシグナルでもあります。

NBAチームの売却報道は、単なるオーナー交代劇ではなく、株式比率・支配権・段階的契約といった複雑な要素が絡み合っています。ファンとしては「完全売却」という言葉に飛びつくのではなく、「どの程度の支配権が移ったのか」「現オーナーは残るのか」に注目することが大切です。

出典元・参考情報

※リンクは将来的に切れる可能性があります。その場合は Reuters の公式サイトや NBA公式プレスリリースを直接ご確認ください。