
ロサンゼルス・クリッパーズが再びスキャンダルの渦中にある。2014年、元オーナーのドナルド・スターリングによる差別発言がリーグ全体を揺るがしたが、今度はチームの顔とも言えるカワイ・レナード(Kawhi Leonard)が、実態のないスポンサー契約を通じて2800万ドルの報酬を受け取っていた疑惑が浮上している。
疑惑の構造:レナードとAspiration社の“ノーショー契約”
2025年9月、ジャーナリストのパブロ・トーレが公開した調査報道によって、カワイ・レナードと環境系企業「Aspiration」の間に、実態のないスポンサー契約が存在していた可能性が浮上した。この契約は、NBAのサラリーキャップ制度を回避するための“裏金”として機能していたのではないかという疑惑が持たれている。
契約の構造と金の流れ
- レナードは2019年にFAとしてロサンゼルス・クリッパーズに移籍。その際、公式には4年1億400万ドルの契約を結んでいる。
- 同時期に、彼の個人会社「KL2 Aspire LLC」が、Aspiration社とスポンサー契約を締結。
- 契約内容は「ブランドアンバサダー」としての活動を含むものだったが、レナードは一度もAspiration社を公に言及しておらず、広告出演やSNS投稿などの活動も確認されていない。
- それにもかかわらず、Aspiration社からKL2 Aspire LLCに対して、複数年にわたり合計2800万ドル(約41億円)が支払われていたとされる。
Aspiration社の背景とバルマーとの関係
- Aspirationは「環境に優しい金融サービス」を掲げるスタートアップ企業で、クリッパーズ現オーナーのスティーブ・バルマーが主要な資金提供者の一人だった。
- 2025年3月に破産申請をしており、その過程で公開された財務資料や元社員の証言が、今回の疑惑の根拠となっている。
- 元社員7名が「レナードとの契約は実質的に“ノーショー契約”だった」と証言しており、企業側もレナードに対して具体的な業務を求めていなかった可能性が高い。
サラリーキャップ回避の可能性
- NBAでは、選手が球団オーナーと直接的または間接的に金銭的な関係を持つことは、サラリーキャップ制度の根幹を揺るがす重大な違反とされている。
- 今回のケースでは、Aspiration社がバルマーの資金で運営されていたこと、レナードが実働なしで巨額の報酬を受け取っていたことから、球団が公式契約外で選手に報酬を与えていた構図が浮かび上がっている。
- これが事実であれば、クリッパーズはリーグ規定に違反しており、ドラフト指名権の剥奪や罰金、契約無効化などの重い制裁が科される可能性がある。
「ノーショー契約」とは?
ノーショー契約(No-show contract)とは、契約上は業務委託やスポンサー活動などの名目があるものの、実際には契約者が何の実働も行わず、報酬だけを受け取る契約形態を指します。
このような契約は、企業や団体が特定の人物に金銭を渡すための隠れ蓑として利用されることがあり、場合によっては脱税、資金洗浄、規定違反などの不正行為に関与する可能性があります。
NBAのような厳格なサラリーキャップ制度を持つリーグでは、球団が選手に公式契約外で報酬を与える手段として使われると、リーグ規定違反となる重大な問題に発展します。
スターリング事件との対比:クリッパーズは変わったのか?
この疑惑は、NBAファンの記憶から薄れかけていた2014年のスターリング事件を呼び起こす。スターリングは当時、交際相手への差別的発言が録音され、リーグから永久追放と250万ドルの罰金を科された。選手たちは団結して抗議し、NBAは「人種差別へのゼロ・トレランス」を明確に打ち出した。
しかし今回の件は、倫理的な透明性という点で、別の角度からNBAの信頼性を揺るがしている。もし裏金契約が事実であれば、リーグ規定違反は明白であり、選手と球団の関係性に新たな疑問が生じる。
NBAの対応と今後の展望
現時点でNBAは正式な調査結果を発表していないが、過去のスターリング事件のように、迅速かつ厳格な対応が求められる。レナードは沈黙を保っており、クリッパーズ側も「事実無根」と否定しているが、破産資料や元社員の証言が揃っている以上、疑惑は簡単には消えない。
ブランド価値と倫理の両立は可能か
カワイ・レナードは、静かで寡黙なスターとして知られてきた。しかし今回の疑惑は、彼のブランド価値だけでなく、NBA全体の倫理的基盤を問うものだ。スターリング事件から11年、クリッパーズは本当に変わったのか──それを問うのは、ファンであり、メディアであり、リーグ自身である。
注記:報道段階であることの確認
この件に関する詳細は、NBAによる正式な調査が完了するまで明らかにはならない。現時点では、報道に基づく疑惑であり、事実関係の確定には時間を要する可能性がある。NBAファンとしては、感情的な反応に流されることなく、今後の展開を冷静に見守り、リーグの対応を注視していくべきだろう。